「どうしてここまで陰謀論が蔓延るのか」ネットリンチは生贄の儀式【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「どうしてここまで陰謀論が蔓延るのか」ネットリンチは生贄の儀式【仲正昌樹】

統一教会の合同結婚式

 

 そこで「左」の側は、自民党を中心とする保守勢力の方こそ、日本の「穢れ」であることを示すために、外来宗教である「統一教会」を、日本を汚染する穢れと見なし、教団と自民党の関係の“深さ”を強調してきた。得体のしれない外来宗教で、韓国人を教祖とし、何故か自民党にすり寄る統一教会は、「外」から到来した「穢れ」の依り代として最適である。

 ただ、数百万人規模の信者がいる創価学会等、他の自民党と関係がある宗教と比べて、統一教会は数万人規模のミニ教団なので、統一教会が「穢れ」だとしても、日本全体を覆う巨大な「穢れ」と見なすことには無理があった。精々、小さなシミだろう。統一教会を激しく嫌う人たちのほとんどは、実際には統一教会信者に会ったことさえないだろう。山上容疑者による安倍元首相殺害を機に、統一教会の自民党に対する働きかけ、両者の“癒着”についてしつこく報じられる中で、次第に「統一教会」の闇が日本全体を覆っているかのようなイメージが浸透することになった。

 自らにまとわりつく「穢れ」を祓ってしまおうとする自民党の変節(=解散命令請求や被害者救済法)によって、統一教会が「穢れ」であるというイメージが更に強まり、そこに野党やマスコミ、ネットサヨクが、「統一教会」と「自民党」のズブズブ、あるいはドボドボの関係を連呼するようになったので、自民党が「穢れ」ているというイメージがかえって強まることになった――ズブズブとかドボドボといった擬音語は、統一教会を象徴的に揶揄する「壺」とイメージ的な相性がいい。

 「統一教会」の個々の信者が「穢れ」扱いされていることは、いくつかの地方自治体の市長・議会による「縁切り宣言」や、地域のボランティア活動、鹿児島のおはら祭からの信者の締め出しなどに見て取れる。地域で活動している一般信者は、既に周囲の人から信者であると知られているので、スパイされるとか身元を隠して勧誘されるといった懸念はないはずである。なのにわざわざ、縁を切ると宣言しないといけないのは、まるで排出物か悪性のヴィルスのようで気持ち悪いという感情が働くからだろう。「穢れ」を祓う行事である「祭り」から排除されるというのは、極めて象徴的である。

 統一教会の信者の大半は日本国籍を持っているので、教団が解散になっても、信者たちは日本国内で生活することになる。それを承知で、左派・リベラルが「カルト教団は日本から出ていけ」と叫び、それがネットで喝采を受けるのは、カルトという「穢れ」をはらって、日本をクリーンにしたい、という願望を抱いている人が多いからだろう。

 では、統一教会を解散して、信者たちを監視状態に置き、自民党を下野させたら、穢れから解放された「日本」は上昇するのだろうか。そう聞かれて、自信をもって、そうだと答える人はかなり少数だろう。むしろ、「穢れ」を祓ったはずなのに、まだ何か淀んでいる感じがして、「隠れ統一教会=真のディープ・ステイト」探しが始まって、世の中ますます暗くなる、と薄々感じている人が多いのではないか。今回の選挙報道で、裏の組織=裏金の話ばかりで、あまり希望的な話が聞こえてこないことから、そうなることは予想できる。これだけ暗い選挙が、日本の政治でこれまであっただろうか。

次のページ統一教会を、穢れを背負った犠牲獣として抹殺するという措置のゆくえ

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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